日本語論文作成法レポート
2012年後期 火曜日1時限 ○○先生
レポート・論文の書き方
ーーソフトを使った場合ーー
埼玉大学日本語教育センター 日本語・日本事情研究室
八木惠子
はじめに
レポート・論文の書き方には二つの側面があります。一つは、内容・構成・展開に関すること、もう一つは書式です。ここでは、ワープロを使った場合の書式の基本を述べてみます。特に注の付け方、引用文献や参考文献の書き方は、課題を出した先生によって、また理系、社会系、人文系によっても少し違いますので注意が必要です。
１ 書式
（１）手書きかワープロ書きか
レポートや論文は、誰かに読んでもらうために書くものです。読みやすく、分かりやすければ、手書きでもワープロ書きでもどちらでもかまいません。手書きだからといって、評価が落ちることはありません。手書きに関しては、原稿用紙を用いて、原稿用紙の書式にしたがって書いたほうがいいでしょう。
自分の書いた文章を客観的に読んで、誤りを見つけやすく、訂正、削除、加筆が簡単にできるのはワープロ書きですので、ここでは、ワープロを使った場合の書式を述べていくことにします。
（２）どのワープロソフトを使うか
ワープロソフトについては、もう使い慣れたソフトがあればそれを使うのがいいでしょう。主なワープロソフトは、Microsoft社のWORD、Justsystem社の一太郎、MacintoshならEGWORD、Macwrightなどといったところです。ここでは、Microsoft社のWORDを使った書き方について述べていきます。まだ決ったソフトがない人は、世界中で一番使われているこのソフトWORDがお勧めです。
（３）書式の設定
１）用紙
ワープロ書式の場合、Ａ４サイズの用紙を用います。ほとんどのワープロソフトの用紙はあらかじめＡ４サイズに設定されています。設定の方法は画面一番上のバー「ファイル」の「用紙設定」を選んでください。
２）字数・フォント・サイズ
字数は原稿用紙１枚４００字で何枚と換算しやすいこともあり、１枚の用紙に１２００字または１６００字が入るように設定します。設定の方法は、画面一番上のバーの「書式」から「文書のレイアウト」を選んでください。余白は上下左右各２０ミリと指定します。「文字数と行数」文字数を４０字、行数を４０字（これでＡ４版１枚、１６００字、原稿用紙４枚分です）、フォントはMS明朝、文字サイズは10.5ポイントが普通です。
レポートとしての形式を重視するなら、横48文字、40行に設定し、さらに脚注をつけますと、レイアウトとしていいまとまりです。（授業時にお渡しする別紙も参照してください）
３）縦書きか横書きか
新聞をはじめ、日本で出版されている日本語による書籍の多くは縦書きです。ですが、ワープロで文章を作る場合、横書きの方が書きやすいし読みやすいことは確かです。分野によって差はありますが――たとえば、日本文学や国語学、日本史学の学術雑誌は縦書きです――ワープロで横書きにしても、出版されるときは縦書きになる可能性があることを念頭にいれて、文章を書いておくべきでしょう。
（４）表題・本文の位置・サイズと改行
１）表題の位置とサイズ
レポートの提出科目名があれば、用紙最初の行の左上に書いておきます。年次なども書き込んでおきます。サイズは本文と同じ１１ポイントです。
表題（タイトル）は、最初の行(科目名を書いた場合はその最終行)から３回改行して２行空け、用紙中央に書きます。表題のサイズは、１４ポイントにします。サブタイトルは、ダッシュで「―○○○○○―」のようにはさんで表題の下に書いてください。文字のサイズは１１ポイントでかまいません。
所属と名前は、サブタイトルの最終行から２回改行して１行空け、右に寄せて書きます。文字のサイズは１１ポイントです。
２）章だて
本文は、「はじめに（序）」、「第○章」、「第○節」、「第○項」、「おわりに」、という順位で構成展開します。章は「一」という数字、節は「（１）」、項は「１」」、さらに細分する場合は「１）〜２）」「i〜iv」のように決めておくといいでしょう。ふつう、章は原稿用紙で３０枚(１２，０００字)から５０枚（２０，０００）程度をひとまとまりにします。この章だての積み重ねによって、卒業論文、修士論文、著書などの原稿を作っていきます。レポートなどの短い文章や原稿用紙で３０〜５０枚の論文は、章や節を使わないで、この順位によった数字で章だてを表記するのがいいでしょう。
章のタイトルは名前の行（名前を表記しない場合、第２章からは前行）から、３回改行して２行空けて書き始めます。章は「１（または第１章） ワープロ書式」のように、中央に寄せて書きます。ここから、２回改行して１行空けて、節があればそのタイトルを左に寄せて書きます。
３）表紙
表紙は卒業論文や修士論文の場合は必ずつけます。レイアウトの例は次のようです。レポートで表紙をつける場合もこれに準じます。分厚い論文になったときは背表紙も必要になります。
谷崎潤一郎「細雪」論
――へだてられた東京物語――
埼玉大学文化科学研究科２０１３年度修士論文
（正 または 副）
日本アジア専攻
学生番号 ○○○×××
夢野乱作
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２ 全角・半角と記号の使い方
（１）本文
本文の日本語は、全角文字で入力します。
本文は、節のタイトルから１回改行し、行を空けないで行頭１字空けて書き始めます。
（２）句読点と記号類
句読点とカッコなどの記号類もすべて全角文字で入力します。句読点は「，」（コンマ）や「．」（ピリオド）を使う理科系、社会系の分野もありますが、縦書きに変換する場合を考慮して「、」（読点）や「。」（句点）を使うようにしてください。句読点や記号類が全角になったり半角になったり「。」と「．」、「、」と「，」が混用されることがないようにしなければなりません。
（３）数字と欧文
算用数字と欧文は半角で入力します。年号は西暦だけで表記する分野と、元号を併記する分野があります。横書きの場合は、漢数字は原則的に使いませんが、縦書きにした場合を考慮しておく必要のある分野があるかもしれません。「一人ひとり」「元気百倍」「八重桜」などのように言葉の中に入った数字は別です。
年号 2000（平成12）年 百分率 48.9％
欧文 Japanese Language
略語 WHO
欧文の場合「，」のあと半角１字、「．」のあと半角３字、段落のはじめを半角５字空けるのが一応の規則です。
（４）まぎらわしい記号
１）「一」(漢数字)「ー」（のばす音）「―」（ダッシュ）
ダッシュは、サブタイトルや文章の途中で説明を入れるときに２文字分を使います。
例＊ 「20世紀の絵画――具象と抽象のはざまで――」
例** 埼玉大学はＪＲの駅から少し離れている――キャンパスに自転車があふれているのはそのせいかもしれない――が、バスの運行もあり、特に交通に不便なわけではない。
ダッシュは目を凝らしてみても漢数字の「一」に見えてしまうので要注意。
「……」（リーダー）は、省略するときに全角２文字分を使います。省略が長くなるときは「(中略)」「（以下略）」などを使います。
２）「−」(ハイフン)「‐」（英文ハイフン）
「−」（ハイフン）は1996−1999など、語と語をつなぐ場合、対立や並記に使います。「‐」（英文ハイフン）は英文に使います。改行によって、一つの単語が分割されてしまうとき、分割した語の直後に「‐」をつけます。
３）カッコ類 「」『』（）＜＞
・「 」は短い引用や語句の取り出しなどに使います。また日本語による論文、映画作品や文学作品の表題タイトルも「 」で表記します。
・『 』は「 」のなかに「 」を入れる場合、書名や雑誌、新聞名を記すときに使います。
・（ ）は文章中に注をつけるときなどの使います。
・＜＞は強調したい語句や、引用から取り出すときなどに使います。
以上のようなカッコ類は、混用すると読み手が混乱しますので、使い方を決めておかなければなりません。
例* 「その列車の表示板には『小樽行き』と書いてあった。」
例** 埼玉の名物うなぎについては「浦和のうなぎ」（多田鉄之助『郷土料理案内』教養文庫1970年）に詳しく書かれている。
３．日本語表記
（１）句読法
日本語文章のどこに読点を打つかについては、一通りの規則があります。
１）接続語の前後
２）連用中止（またはテ形）の後ろ
３）条件・原因理由・逆説、時などをしめす語の後ろ
４）主題を示す「は」などの後
５）言葉の修飾関係をはっきりさせるとき
６）ひらがななどが続いて、読点をつけたほうがわかりやすいとき
（２）接続詞や副詞、形式名詞はひらがな書きにします。
・叉→また 因って→よって 従って→したがって
・時々→とこどき 稀に→まれに 極めて→きわめて
・〜の為→〜のため どういう事だろう→どういうことだろう
（３）固有名詞と旧漢字、かな表記
人名や地名などの固有名詞は、漢字を含めて表記に注意します。
例 芥川竜之介→芥川龍之介 南ちえ→南ちゑ
固有名詞以外で、引用文に旧漢字がある場合は新字に直します。仮名遣いはそのままにします。このような処置をしたことを、レポートや論文の最後に断る必要があります。
例 なお、引用にあたって、仮名遣いは原文のまま、旧漢字は新字に改めた。
使用したテキストや底本、書誌についての断り書き、論文中で統一的に用いた記号類があれば、「凡例」としてまとめ、レポートや論文の目次の前に付けると分かりやすいでしょう。
（４）文体
日本語の文体は、普通体（だ。である。だろう。はやい。考える。―動詞・形容詞は辞書形で止める―）と敬体（です。ます。でしょう。）がありますが、これを混用してはいけません。論文やレポートは普通体で書くことになっています。「〜と思っちゃった」「〜だよ」などの会話体は使いません。「？」「！」などの記号の濫用もよくありません。
（５）一文の字数と段落の字数
１）一文
一文が５０字をできるだけ越えないようにします。
２）１段落
２００〜４００字をおおよその目安にして改行し、段落をつけます。
４．図表の扱い
（１）通し番号とタイトルをつける
例 図II−３ 日本の動物分布 （資料『日本の自然』講談社 2010年p222）
表IV−１ 日銀のドル売り・ドル買 （『経済白書』1997年158頁から）
ローマ数字は章を、算用数字はその章の何番目かの図または表であることを示します。
（２）作図・作表か引用か、また出所を明記
図表は筆者が作ったものか、引用かを明記します。筆者が作ったものなら、素材にした文献や資料、データーを明記しなければなりません。面倒ですが、レポートや論文を書く基本ですし、レポート、論文の真価がこの作業によって評価されます。
５．引用
（１）短い引用
「 」ではさんで表記します。引用した文献は（ ）ではさんで本文に入れてもいいですし、注として本文の終わりにまとめて書いてもいいでしょう。
「人間はだれでも地獄に堕ちたくないと願うのが自然である。しかし、人間はよほどの聖者でないかぎり、しらずしらずのうちに、少なからず悪を重ねるのも事実である。」（澁澤龍彦・宮次男『地獄絵をよむ』河出書房新社１９９９年５月）
「 」のなかにもう一つ「 」を入れる場合は、中に入る「 」を『 』に変えます。
「気が強い人間のことを『鼻っ柱が強い』というように、鼻の高い人には、自尊心の強い人が多いようです。」（渋谷昌三『外見だけで人を判断する技術』ＰＨＰ文庫１９９８年１０月）
（２）長い引用
長くてまとまった引用は、本文から前後で１行分空け、行頭から２文字分空けて引用します。段落のはじめは行頭から３文字分空けることになります。
私は病気である。ほとんどまともな生活ができなくなってしまい、症状はますます
ヒドクなる。私は街へ出るのが怖い。街を歩くことが、電車に乗ることが、銀行へ行
くことが、買い物をすることが、喫茶店に入ることが・・・、いや、街ばかりではな
い。行楽地に行くことはもっと恐ろしい。・・・いや、外に出なくとも、家にいても
なお怖いのだ。
その病名は「スピーカー恐怖症」である。
（中島義道『うるさい日本の私』新潮文庫１９９９年１２月ｐ３）
論文やレポートで最も大切なことは、他人の意見と自分の意見が区別できていることです。本や、インターネットから文章や図表を引用したときは、必ず出典を明記しなければいけません。誰かの素晴らしい発想や言葉の表現を自分のものとして表現するより、論文やレポートにおいては、客観的にそれを引用して自分の意見を展開したり、新しい論評をつけ加えることの方が価値があります。
６．注のつけ方
注は、文章の終わりにつけます。卒業論文のような、章だてのある長い論文の場合は、章ごとにつけます。注は、本文中の文の右肩に１）や１をつけ、本文の末尾に1行あけてまとめて記載します。注は、論を補強するために他の文献の内容を示したり引用したりする場合と、出典だけを明記する場合があります。脚注（ページの下）と末尾（章やレポートの終り）にまとめてつける方法があります。横書きの場合は脚注、縦書の場合は末尾が多いようです。
［注］
１）1984年5月25日改正の「国籍法」の第14条には，「国籍の選択」として次のよう
に規定されている。（以下略）
２）在日韓国・朝鮮人は、通常，約70万人と言われているが、この数字のあげ方には
明確な基準が欠けている。というのは、……（以下略）
３）宮地裕「語の意味」『日本語と日本語教育』明治書院１９８９年９月ｐ１４９
４）劇場建築について、警視本署は明治１０年２月に建築制限を設定・指揮することを
決議している。（『警視庁史稿』上ｐ１５７）
７．参考文献
参考文献は、［注］（末尾の形式の場合）のさらに後に、1行あけて、あいうえお順、アルファベット順、出版年順のいずれかを選んでリストアップします。欧文の書名、雑誌名はイタリック体にします（イタリック体はアンダーラインをつける方法でもかまいません）。
英文の著書・論文のタイトルは、途中の冠詞と前置詞・接続詞を除き、単語の最初を大文字にします。独文や仏文、中国語などの著書や論文の表記もそれぞれ違いますので、それぞれの専門に応じて表記を確かめましょう。
以下は、人文学系の参考文献の書き方の例【Ａ人文科学系】と、教養学部の福岡安則先生（社会学）のホームページに掲載されていた（URL=http://www.kyy.saitama-u.ac.jp/~fukuoka/ministyle.html）文献の記載の仕方の例【Ｂ社会科学系】です。社会科学系の論文やレポートを書くの場合の参考にしてください。訳書、英文の著書、和文の著書、和文の論文、和文の編書論文、英文の論文などをアルファベット順に記載してあります。
文献が２行にわたる場合は、２行目の冒頭は全角で２文字空けます。
【Ａ人文科学系】
［参考文献］
エドワード・サイード『オリエンタリズム』板垣雄三・杉田英明監修、今沢紀子訳、平凡社、１９８６。
イマニユエル・ウォーラスティン『史的システムとしての資本主義』川北稔訳、岩波書店、１９９３。
亀井秀雄『個我の集合性―大岡昇平論』講談社、１９７７。
柄谷行人『日本近代文学の起源』講談社文藝文庫、１９８８。
鈴木尚『骨は語る―徳川将軍家・大名家の人びと』東京大学出版会、１９８５。
テリー・イーグルトン『批評の政治学』大橋洋一他訳、平凡社、１９８６。
丸山眞男『近代政治の思想と行動（上・下）』未来社、１９５６、５７。
Carus, Pail, 1900,The History of the Devil. Chicago: The Open Court Publishing Company.
Davidson, Gustav,1967, A Dictionary of Angels. New York: The Free Press.
Gardiner, Eileen, ed, 1989, Visions of Heaven & Hell befor Dante.New York: Italica Press.
Genevieve, Morgan and Tom, Morgan, 1996, The Devil. San Francisco: ChronicleBooks.
Godwin, Malcom, 1990, Angels. New York: Simon &Schuster.
Masello, Robert, 1994, Fallen Angels. New York: Perigee Books.
Milton, Jhon, 1989, The Complete Prose and Poetry of Jhon Milton. New York: Random House.
Pinsky, Rpbert, 1994, The Inferno of Dante. New York: Farrar, Strausand Giroux.
【Ｂ社会科学系】
［参考文献］
Allport, Gordon W., 1942, The Use of Personal Documents in Psychological Science,
New York:Social Science Research Council.
（＝1970，大場安則『心理科学における個人的記録の利用法』培風館．）
Broadbent, Jeffrey, 1998, Environmental Politics in Japan: Networksof Power and
Protest, New York: Cambridge University Press.
福岡安則，1992，『現代若者の差別する可能性』明石書店．
────，1993，『在日韓国・朝鮮人──若い世代のアイデンティティ』中央公論社
福岡安則・辻山ゆき子，1991，『同化と異化のはざまで──「在日」若者世代のアイデンティティ葛藤』
新幹社．
石川准，1991，「エスニシティ研究の現在──アイデンティティ問題を中心に」『解放社会学研究』5: 89-111．
Marx, Karl, [1844] 1956, "Zur Judenfrage," Marx Engels Werke, Band 1,
Berlin: Diets Verlag, 347-77.（＝1974，城塚登訳『ユダヤ人問題によせて／ヘーゲル
法哲学批判序説』岩波書店．）
高橋徹，1965，「日本における社会心理学の形成」高橋徹・富永健一・佐藤毅『社会心理学の形成』
培風館，317-505．
Yasuda, Saburo, 1964, "A Methodological Inquiry into Social Mobility,"
American Sociological Review, 29(1): 16-23.
（上記社会科学系参考文献の例は埼玉大学教養学部福岡安則先生（社会学）のページを参考にしました。記して御礼申し上げます。）
８．おわりに
論文やレポートの書き方については、八木研究室のホームページ（URL=http://yagi.la.coocan.jp/ron/gakuken.html）も参考にしてください。埼玉大学の先輩たちの親切な案内も掲載してあります。
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