２０１０年１０月の舞台 埼玉芸術劇場
埼玉芸術劇場大ホールは盛況で台風でも満席。当日券が出て、「じゃじゃ馬馴し」千秋楽の舞台を見ることができました。シェークスピア原作、この作家の全戯曲37本の完全上演の計画うち、23弾にあたります。
自分が領主と思い込まされた居酒屋の亭主スライが、「じゃじゃ馬馴し」のお芝居を見る、という設定です。舞台で繰り広げられるお話のすべてが、お芝居、という約束が最後まで守られます。喜劇ですが、自己主張を繰り返す「手に負えない」暴力的な妻カタリーナ（市川亀治郎）に、食べ物を与えず、夜も眠らせず、夫ペトルーキオ（筧利夫）が別荘で「仕込む」、という主題は、女性蔑視、虐待だという視点、一方で男性の愛の力を評価する視点があると思います。男女を問わず、フェミニストには喜劇どころか、嘔吐、打倒すべきテーマでしょう。劇中劇のお話ですよ、はそのための念押し。
物語は、イタリアのヴェネチアに近いパドウ゛ァの資産家の二人の姉妹の結婚話です。姉のカタリーナは強烈なじゃじゃ馬。聞いていると「正論」とも思えてくる悪口雑言を誰彼となく浴びせ、殴る蹴る、当たり前。妹のビアンカ（月川悠貴）は清純で気だてがよく、求婚者が殺到。しかし、父のバプスティスタ・ミノラ（磯辺勉）は、姉カタリーナが先に結婚することを条件に、ビアンカの結婚を許すといいます。誰も止められないじゃじゃ馬、カタリーナの言い分は、彼女がこのようにしか生きられなくなった理由は、父として平等であるべき、いやそれ以上に、父の愛は、姉娘である自分に、こそ、注がれるべきのところ、ぬけぬけと妹娘を愛し、自分を軽んじて育てた。それが、現在の我身を形成した「おおもと」だ、というもの。攻撃の矛先は、二人だけになった折に妹にもリアルにぶつけられます。はではでな姉妹喧嘩（ほんとは月川さんとの男性同士の喧嘩）。
求婚者の中の二人、ルーセンショ（山本裕典）とホーテンショ（横田栄司）は、音楽教師に身をかえて、ビアンカに接近。やがて二人は結束して、ホーテンショの親友でウ゛ェロナからやってきた、ペトルーキオ（筧利夫）を持参金を種に唆し、カタリーナの結婚相手にしてしまいます。
見どころ、聞きどころは、カタリーナと、ペトルーキオの長ゼリフです。カタリーナ（市川亀治郎）は歌舞伎河竹黙阿弥の七五調の台詞回しを下敷きにした、優雅でよどみない流れで時々、型を破って魅了します。ペトルーキオ（筧利夫）の台詞回しは、弾丸で軽薄。正直、観客から見ると、いかにじゃじゃ馬でも、こんな粗野で馬鹿な男性と結婚しちゃった、カタリーナ（亀治郎）が、かわいそうに思えるほど、筧利夫さんは楽しかった。すごい。台詞が回るたびに、失笑とため息。拍手。
別荘での拷問、食べさせられず、眠らされずは、何をもっても、亀治郎さんの品格ある女形に驚嘆と敬意を表します。注目の演説、毅然として説得力がありました。「夫にしたがうが妻の幸福」。。羨ましい。。。一生言えない。聞かされた所で、たぶん「あ、そう」。しかし、言ってみたい。たとえば、水谷八重子さん、山田五十鈴さん、杉村春子さんなど、名女優が年齢を重ねられて、はじめて見せることができる内側から輝く「女の貫禄」を、歌舞伎役者市川亀治郎さんは、あの歳で掴んでおられます。おそるべし歌舞伎の型。亀治郎さんの至芸と知性（イマジネーション）に拍手。舞台を作り上げる翻訳と演出家の腕もありです。カーテンコールは、文化勲章受賞が決まって発表された直後とあって、蜷川幸雄さん登場。慶賀申し上げます。思い出に残る舞台でした。
（2010年10月30日土 1階当日席 2011年7月26日記）
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