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２０１１年９月　国立劇場　第176回文楽公演
午後4時30分開演

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　第二部を観劇しました。「源平盛衰記」をわかりやすいお芝居にしたというので「ひらかな盛衰記」（1739年）。あまり分かりやすくありませんが、舞台は魅力的。全5段です。通しなら徹夜。今回は、第3段（大津宿屋〜逆櫓までの）の上演です。木曾義仲（1154−1184）は、平家討伐で挙兵、平氏一族を西海に追います。ですが、都を支配しきれない木曾義仲軍に狼藉があって、朝廷は、源頼朝に討伐を命じます。源氏骨肉の争いの一つ。義経軍に追われた義仲は、琵琶湖を廻って木曽に敗走する途上、粟津で騎馬が氷湖にはまり、最期を遂げます。この第3段は、義仲の遺児、駒若君（ぎみ）と妻山吹御前が落ち延びて一夜を過ごす大津の宿屋「清水屋」から描かれます。「ひらかな盛衰記」のうち、「逆櫓」は、歌舞伎でも盛んに上演されますが、「大津宿屋の段」の上演は珍しいように思います。心強い伴は女武士「お筆」。この旅籠には、巡礼中の一行「津の国」の船頭権四郎と娘およし、孫の槌松が同宿しています。槌松と駒若君は同年輩です。夜更けて源氏の追手番場忠太（長谷川伸「瞼の母」番場忠太郎＜ばんばのちゅうたろう＞ではありません）から逃れんとするとき、子供の取り違いが起こってしまいます。旅籠内部など、時代のままの装置。一夜の燃料費「木賃」だけ払う泊まり方があることも科白で説明、さりげない旅のガイドのようです。

　「笹引」は、追手（番場忠太）と駒若君一行との立ち回り。お筆が勇ましく応戦、敵を追います。この間にお筆の父鎌田隼人が番場忠太と切り結んで討死。番場忠太は、男子の遺児を生かしておけば後々の悔恨になると、駒若君（実は槌松）を殺害します。母君の山吹御前は衰弱とショックでその場で絶命。敵を追い散らして戻ったお筆は、若君、御台所、父の亡骸を前に嘆きます（強くていい女の嘆き、必見）。けれども、残された童子の胴体は、若君ではなく、別の子供のものであることに気付きます。若君を取り戻し、主君と父の仇を討つ、お筆の誓い。お筆が、山吹御前の遺体を笹に乗せて運びます（二か所をひもで固定、笹を引きます）ので、この場面の名があります。この段は豊竹呂勢太夫さん、三味線は鶴澤清治さん。実は、この段の始まりに、地震（震度3くらいかしら）があり、さらに、上演中、この人間国宝の三味線の糸が切れ、一方でかけ直しの大修理、一方で平常の音を出していたのには驚嘆しました。語りの呂勢太夫さんは、お若いと思うけれど、丁寧で力のある語り。2009年9月の文楽公演「テンペスト」以来、登壇を楽しみにしてます。人形はお筆、吉田和生さん。

　「逆櫓」の分かりにくさは「やつし事」にあります。人物、船頭権四郎、松右衛門（樋口次郎）、畠山重忠の、本性と仮の姿の両面の理解が必要。予備知識なしに目に見える舞台のすべてを鑑賞することは難しい。理解の軸は「主君のため」、、た、ため息。豊竹咲太夫さんの語りはいつもながら明るい。逆櫓の船頭唄「シシヤッシシ」が楽しい。三味線は鶴澤燕三さん。何年か前、眠る客席が震え起きた「凄い」曲弾きをご披露くださいました。忘れじの演奏。人形は権四郎、吉田玉也さん、松右衛門、吉田玉女さん。

　「紅葉狩」は、能からの演目。「景事」。歌舞伎では、長唄、義太夫、常磐津の掛け合いが楽しい名曲です。勘三郎さんの舞台では清元もあり。文楽で見るのは初めてでした。文楽では、三味線の他、琴が使われます。お若い方のすっきりした演奏。山神は文楽でも舞台の核。なんといい。「鬼神を滅ぼせし剱の威徳末の世に語り伝えて」と名刀をたたえて幕。戸隠山の鬼女は妖怪。